万葉集に登場する様々な物品や生物を美しい絵画で表現:万葉集品物図絵
- JBC
- 2024年4月15日
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更新日:1月25日
鹿持雅澄の『万葉集品物図絵』は、江戸時代後期の国学者である鹿持雅澄が、万葉集に登場する動植物を写生した図譜です。全3巻からなり、彩色で描かれた動植物の絵が掲載されています。第1巻と第2巻には植物、第3巻には動物が描かれています。 雅澄は土佐藩(現在の高知県)の下級武士の家に生まれ、17歳頃から儒学や国学を学び始めました。 家老の福岡孝則の知遇を得て藩校で働き、福岡家の蔵書を閲覧できたことが、雅澄の万葉集研究を大きく前進させることになりました。 雅澄は生涯を万葉集研究に捧げ、『万葉集古義』というライフワークともいえる万葉集研究書を著しました。 『万葉集品物図絵』は、この『万葉集古義』の内の一つとして制作されたと考えられます。
作成の背景と目的
雅澄は若い頃から歌を詠むことに熱中し、歌会にも頻繁に参加していました。 しかし、次第に学問への意識が高まり、万葉集研究へと関心が移っていったようです。 雅澄は万葉集の世界をより深く理解するために、そこに登場する動植物を自ら観察し、写生することで、当時の文化や風俗を明らかにしようとしたと考えられます。
描かれている品物の種類と特徴
『万葉集品物図絵』には、草木、花、鳥、魚、虫など、様々な動植物が描かれています。国立国会図書館デジタルコレクションに収蔵されている写本には74枚の図が確認できます。 雅澄は写生にあたり、対象物の特徴を正確に捉え、細部まで丁寧に描写することに努めました。 例えば、鳥の絵では、体格の大小、尾羽の長さ、趾(あしゆび)の高さなど、細かな点まで観察し、描写しています。 また、それぞれの絵には、万葉集の該当の歌が書き添えられており、図と歌を照らし合わせながら鑑賞することができます。
芸術的価値と文化的意義
『万葉集品物図絵』は、単なる図譜としての価値だけでなく、芸術作品としての価値も高く評価されています。雅澄の写生は、対象物を正確に描写することに加え、植物や動物の生き生きとした姿を表現しており、高い芸術性を備えています。 また、万葉集の歌と絵を組み合わせることで、当時の文化や風俗を視覚的に理解することができます。例えば、衣服や武具、農具などの絵からは、当時の生活様式や技術レベルを窺い知ることができます。また、植物や動物の絵からは、当時の自然環境や人々の自然に対する認識を理解する手がかりが得られます。 このように、『万葉集品物図絵』は、文化史的にも重要な資料となっています。
加えて、『万葉集品物図絵』は、日本の自然描写の伝統においても重要な位置を占めています。写実性と芸術性を兼ね備えた雅澄の描写は、後世の画家たちにも影響を与え、日本の絵画史に新たな視点をもたらしました。
鹿持雅澄について
ここで、『万葉集品物図絵』の作者である鹿持雅澄について詳しく見ていきましょう。雅澄は寛政3年(1791年)に土佐藩の下級武士の家に生まれました。 本姓は藤原氏で、その支流である飛鳥井家の末裔を自称していました。 雅澄は、雅澄の他に深澄、雅好など複数の名前や号を用いていました。 藤田、山斉、古義軒、柳村愿太といった別名も知られています。
雅澄は若い頃は学問を好まなかったという記録が残っていますが、 17歳頃から儒学や国学を学び始め、生涯を通じて学問研究に励みました。 特に万葉集研究に情熱を注ぎ、その集大成として141冊からなる『万葉集古義』を完成させました。 『万葉集古義』は、本文の注釈だけでなく、枕詞解、人物伝、そして品物解といった多岐にわたる研究を含んでいます。 『万葉集品物図絵』もこの大著の一部であり、5巻からなる品物解と合わせて、万葉集に登場する様々な品物への理解を深めるのに役立ちます。
下級武士という身分であった雅澄が、学問、特に古代の文化や精神性に傾倒していったのは、当時の社会状況や自身の境遇と無関係ではないでしょう。 身分の低い武士にとって、学問は社会的地位を向上させる数少ない手段の一つでした。また、当時の土佐藩では、尊王攘夷思想が高まりつつあり、古代の日本への関心も高まっていました。このような時代背景の中で、雅澄は万葉集研究を通して、古代日本の文化や精神性を明らかにし、それを現代に蘇らせようとしたのかもしれません。
結論
鹿持雅澄の『万葉集品物図絵』は、万葉集に登場する動植物を写生した図譜であり、雅澄の万葉集研究の成果の一つです。その絵は、正確な描写と高い芸術性を兼ね備えており、万葉集の世界を視覚的に理解する上で貴重な資料となっています。 絵と歌を組み合わせることで、当時の文化や風俗、人々の自然観をより深く理解することができます。また、日本の自然描写の伝統においても重要な位置を占めており、後世の画家たちにも影響を与えました。
『万葉集品物図絵』は、単なる図譜を超えて、万葉集の世界を豊かに彩る芸術作品であり、日本の文化史、美術史においても重要な価値を持つ資料と言えるでしょう。
※全三冊のうち、植物が描かれている一~二を紹介します。
一
鹿持雅澄『万葉集品物図絵』[1],写. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2545189
二
鹿持雅澄『万葉集品物図絵』[2],写. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2545190
参考
万葉集品物図絵稿 (2巻) - 書陵部所蔵資料目録・画像公開システム - 宮内庁
万葉集品物図絵 - Next Digital Library
文化財情報 史跡 鹿持雅澄邸跡 - 高知市公式ホームページ
『新撰万葉集』の漢詩にみられる和歌的表現 - 名古屋大学学術機関リポジトリ