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沈丁花:春の到来を告げる芳香


沈丁花の花

春の訪れを告げる花、沈丁花。その甘く濃厚な香りは、冬の寒さに耐え、待ち焦がれていた春の暖かさを思わせる、格別なものです。沈丁花は、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木で、原産地は中国南部と言われています。日本には室町時代以前に渡来し、その芳香と可憐な花姿から、古くから人々に愛されてきました。   




沈丁花の育て方:日当たりと水はけがポイント


沈丁花を育てる上で重要なのは、日当たりと水はけです。沈丁花は、日当たりが良い場所でも育ちますが、半日陰を好みます。西日が強く当たる場所は避け、午前中に日が当たるような場所を選んで植えるのが良いでしょう。   


土壌は、水はけと水もちの両方に優れた、弱アルカリ性の土壌が適しています。鉢植えの場合は、赤玉土や腐葉土を混ぜて、水はけの良い土壌を作ってあげましょう。庭植えの場合は、植え付け前に腐葉土や堆肥を混ぜて土壌改良を行うと良いでしょう。   




沈丁花の多様な利用方法:庭木から香料、薬用まで


沈丁花は、その美しい花と香りを楽しむために、様々な方法で利用されています。庭木としては、和風庭園、洋風庭園どちらにも合い、下草や背景の植物との組み合わせによって、さらに魅力を引き出すことができます。また、鉢植えでも楽しむことができ、コンパクトに育てられる矮性品種もあります。   


切り花としても利用できますが、水揚げが悪いので、切り口を十字に割ったり、熱湯に浸けるなどの処理が必要です。香りが強すぎるので、茶事などの世界では嫌忌されて、使用が差し控えられることもあります。


沈丁花は、漢方薬としても利用されてきました。漢方では「瑞香花」と呼ばれ、主に花の部分が薬用として用いられます。歯痛、咽喉痛、乳がん初期、神経痛などに効果があるとされ 、民間療法では、歯痛や口内炎の際に用いられていたようですが、植物のすべての部分が毒性を持っており、特に果実が危険です。樹液に直接触れることは、一部の人に皮膚炎を引き起こす可能性があります。




沈丁花と文化:日本における歴史と主な品種


沈丁花は、室町時代以前に中国から日本に渡来したと言われています。日本にやってきた当初は、薬用として利用されていたという記録も残っています。その後、その芳香と美しい花姿が人々の心を惹きつけ、茶花や香道、庭木として広く親しまれるようになりました。   


一条兼良が年中行事や各種事物について記した『尺素往来』(1489年)に「沈丁華」の記載があり、これが文献での初出であることから、室町時代には日本でも栽培されていたことになります。


江戸時代中期になると、園芸書に沈丁花が登場するようになり、儒学者の貝原益軒は著書『大和本草』(1709年)の中で、沈丁花の香りの素晴らしさを「香遠し故に七里香とも云」と記しています。


沈丁花は、その香りの良さから、夏のクチナシ、秋のキンモクセイとともに、「日本の三大香木」の一つに数えられています。沈丁花の別名である「七里香」は、その香りが七里(約27km)先まで届くという意味で付けられたと言われています。ちなみに、キンモクセイは「九里香」という別名を持ち、九里は約35kmに相当します。


沈丁花という名前の由来は、香木の一種である「沈香」に似た香りと、スパイスとして知られる「丁子(クローブ)」に似た花の形からきていると言われています。学名のDaphne odoraは、「香りのよいダフネ」という意味で、ギリシャ神話に登場するニンフ、ダフネにちなんで名付けられました。

沈丁花には、様々な品種が存在します。花の色が白い「白花沈丁花」 は、紅紫色の花を咲かせる一般的な沈丁花よりも香りが強いのが特徴です。葉に白い斑が入る「覆輪沈丁花」は、明るい葉色が庭に彩りを添えてくれます。また、「矮性沈丁花」のように、樹高が低くコンパクトに育つ品種もあり、鉢植えで楽しむのに最適です。   


右 白花沈丁花   左 覆輪沈丁花




沈丁花の花言葉


沈丁花には、「栄光」「不死」「不滅」「歓楽」「永遠」といった花言葉があります。「栄光」は、学名の由来であるギリシャ神話のダフネと月桂樹の繋がりから、「不死」は常緑樹であることに由来すると言われています。   



沈丁花を詠んだ歌


沈丁花の香りは、多くの歌人に歌の題材として詠まれてきました。


正岡子規

雨戸あけて手洗ひ居れば庭の闇に紛々と匂ふ沈丁の花


与謝野晶子

春むかし夢に人見し京の山の湯の香に似たる丁子の小雨


種田山頭火

湛ふ水に沈丁花醒めて香を吐けり


高橋淡路女

沈丁の香にこの頃の月のよき




さいごに


沈丁花は、美しい花と芳醇な香りで、私たちを魅了する植物です。古くから愛され、文化や芸術にも深く関わってきた沈丁花を、ぜひ身近に感じて、春の訪れを存分に楽しんでください。



沈丁花の花

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