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江戸の粋を彩る:変化咲き朝顔と三都一朝の美

  • 執筆者の写真:  JBC
    JBC
  • 2023年7月30日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月12日




変化咲き朝顔は、江戸時代に一世を風靡した園芸植物です。その多様な花容は、当時の人々の心を捉え、文化や芸術に大きな影響を与えました。アサガオはもともと日本原産の植物ではなく、原産地については諸説あります(ヒマラヤ地方、熱帯アジア、あるいは熱帯アメリカなど)。日本へは奈良時代末期に薬用植物として渡来し、その後観賞用としても栽培されるようになりました。江戸時代に入ると、園芸ブームが起こり、アサガオも品種改良が盛んに行われました。このブームの背景には、中国の園芸文化の影響もありました。特に、花や葉の形に変化が生じる「変化咲き朝顔」は、江戸の人々の心を掴み、独自の園芸文化を形成していきました。注目すべきは、アサガオは世界中に広まっているものの、日本のように変化朝顔の育種が進んだのは他に例がないということです。   


本稿では、変化咲き朝顔の木版図譜である『三都一朝』を分析することで、江戸時代の園芸文化、そして変化咲き朝顔の魅力に迫ります。『三都一朝』は、嘉永7年(1854年)に江戸の植木屋・成田屋留次郎によって出版されました。本書には、江戸、大阪、京都(三都)の朝顔愛好家によって育成された名品が、画家・田崎草雲の美しい多色刷り絵で掲載されています。水鳩台、紺絞台・煤竹車、紅三段車、薄黄車・紅糸など、個性豊かな朝顔の姿が生き生きと描かれています。『三都一朝』は、当時の変化咲き朝顔の流行と文化を伝える貴重な資料であると言えるでしょう。また、当時の美意識や社会的な価値観を反映したものであり、江戸文化を理解する上でも重要な意味を持ちます。   




三都一朝の美


図譜に描かれた朝顔の種類と特徴


『三都一朝』には、多種多様な変化咲き朝顔が描かれています。これらの朝顔は、花の色、形、大きさ、模様などがそれぞれ異なり、その変化の幅広さに驚かされます。変化咲き朝顔は、「正木」と「出物」の2つのタイプに分けられます。「正木」は種子が採れるタイプで、比較的安定した形質を次世代に伝えることができます。一方、「出物」は種子が採れないタイプで、より複雑で多様な変化を見せます。図譜に載っている朝顔の多くは、「出物」であり、多数の劣性変異を多重に含むため、系統の維持が難しかったと考えられます。   


※ 以下は花の変化の一例です。


糸柳

花弁が細長く変化したもので、繊細な糸のような花弁が特徴です。   


変化朝顔


牡丹

花弁が抱え込むように咲くもので、牡丹の花のように重なり合った花弁が豪華な印象を与えます。   


変化朝顔


車咲き

花弁が複数重なり合ったもので、幾重にも重なった花弁が、まるで車輪のように見えます。   




図譜には、それぞれの朝顔の特徴が詳細に描写されており、当時の園芸技術の高さを窺い知ることができます。



図譜の芸術性と技術的側面


『三都一朝』の図譜は、芸術性と技術的側面の両面から高く評価されています。田崎草雲の写実的な描写は、朝顔の繊細な美しさを余すところなく表現しています。また、多色刷り木版技術を用いることで、花の色や模様が鮮やかに再現されている点も注目に値します。当時の出版技術と芸術家の技量が融合した、優れた木版図譜と言えるでしょう。   



図譜にみる変化咲き朝顔の流行と文化


『三都一朝』は、江戸時代の変化咲き朝顔の流行と文化を反映した資料でもあります。図譜には、当時流行した朝顔の種類や、その名称、育成者などが記録されています。これらの情報から、当時の園芸愛好家たちの間で、どのような朝顔が人気を集めていたのか、どのような価値観が共有されていたのかを推察することができます。   




成田屋留次郎の貢献


成田屋留次郎の生涯と出版活動


成田屋留次郎(文化8年(1811)‐明治24年(1891))は、江戸時代後期の植木屋であり、変化咲き朝顔の栽培と販売に携わっていました。彼の本名は山崎留次郎であり、成田屋は屋号です。留次郎は、変化咲き朝顔に深い造詣を持ち、自らも品種改良に取り組んでいたと考えられます。『三都一朝』の出版は、彼の長年の経験と情熱の結晶と言えるでしょう。   


三都一朝における成田屋留次郎の役割と貢献


成田屋留次郎は、『三都一朝』の出版において、以下の役割を担ったと考えられます。

  • 変化咲き朝顔の収集:江戸、大阪、京都の朝顔愛好家から、名品を収集しました。

  • 図譜の制作:画家・田崎草雲に依頼し、図譜を制作しました。

  • 解説文の執筆:図譜に付随する解説文を執筆し、朝顔の特徴や栽培方法などを紹介しました。

  • 出版:自らの費用で『三都一朝』を出版し、世に広めました。

留次郎は、『三都一朝』を通して、変化咲き朝顔の魅力を広く伝えるとともに、江戸時代の園芸文化の発展に貢献したと言えるでしょう。




現代における変化咲き朝顔


近年、変化咲き朝顔は再び注目を集めています。国立歴史民俗博物館 くらしの植物苑では、20年以上にわたり「伝統の朝顔」と題した企画展を開催し、変化咲き朝顔の歴史と魅力を紹介しています。これは、江戸時代から続く変化咲き朝顔の文化が、現代においてもなお受け継がれていることを示しています。   


『三都一朝』は、変化咲き朝顔の木版図譜として、文化史的、美術史的に高い価値を持ちます。図譜は、当時の変化咲き朝顔の多様性と美しさを伝えるとともに、江戸時代の園芸文化を理解する上で貴重な資料となっています。『三都一朝』は、単なる植物図鑑ではなく、江戸時代の園芸文化、美意識、社会的な価値観を反映した重要な文化遺産であると言えるでしょう。   




三都一朝 一


成田屋留次郎 著 ほか『三都一朝』,嘉永7 [1854]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2609169





三都一朝 二


成田屋留次郎 著 ほか『三都一朝』,嘉永7 [1854]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2609169






参考/引用


浮世絵に見る江戸時代の園芸 - 千葉の県立博物館


アサガオの園芸史


三都一朝 - 古書の博物館 西尾市岩瀬文庫


三都一朝 | NDLイメージバンク | 国立国会図書館


江戸の園芸講座と変化朝顔の栽培


変化朝顔 - 九州大学


伝統(でんとう)の朝顔(あさがお) 20年の歩み - くらしの植物苑特別企画 | スケジュール | こどもれきはく(国立歴史民俗博物館)


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