top of page
  • noteのアイコン
  • Instagram

江戸時代の幕臣が描いた薬草類の写生画集:庶物類纂図翼 


庶物類纂図翼の概要


『庶物類纂図翼』は、江戸時代中期の幕臣、戸田要人(祐之)が描いた薬草類の写生画集です 。安永8年(1779年)に幕府へ献上され、紅葉山文庫に収蔵されました 。全28冊からなり 、他に「草木別録」2冊と本書作成の経緯を記した「添書」1冊が含まれています 。袋綴じ冊子装で、藍色地亀甲空押模様の表紙が特徴です 。   


『庶物類纂図翼』は、先に完成していた『庶物類纂』の参考図譜として位置づけられています 。『庶物類纂』は動植物・鉱物の中から薬効のあるものを分類し、中国の文献から関係する記事を収集して編纂した、全465冊からなる大規模な本草書です 。一方、『庶物類纂図翼』は主に薬草類の写生に焦点を当て、図と名称を対応させている点が特徴です 。   




作成の背景と目的


戸田祐之は若年より植物を好み、『本草綱目』に収録されている薬草を写生し続けました 。そして、安永7年(1778年)に、自ら作成した写生画を幕府に献上したいと願い出ます 。幕府は、本草学者である植村政勝・田村元長らに、図の学術的価値を調査させました 。その結果、図は「『本草綱目』の記述と一致しない植物もあるが、その部分を訂正し、『庶物類纂』に添えて収蔵すれば、薬草類の形状の確認の際に有用である」と評価され 、『庶物類纂図翼』という書名が与えられ、紅葉山文庫に収蔵されることになりました 。   


『庶物類纂』は、加賀藩主前田綱紀が、京都の本草学者・稲生若水に命じて編纂を開始した博物書です 。全1000巻を予定していましたが、若水が病没したため中断 。享保4年(1719年)に8代将軍徳川吉宗の要請により、成稿分が綱紀から幕府に献上されました 。吉宗は、若水の弟子である丹羽正伯らに編纂事業の継続を命じ、元文3年(1738年)に全巻が完成、延享4年(1747年)にさらに増補され、全1054巻、動植鉱物総計3590種を載せる大規模な編纂事業が完了しました 。   




作者について


戸田要人(祐之)


  • 生没年:1724年 - 1779年    

  • 身分:江戸時代中期の武士、旗本    

  • 役職:書院番、小普請組    

  • 業績:『庶物類纂図翼』の作成    


戸田祐之は、若年より植物を好み、『本草綱目』の草木についての写生画を描き集めました 。彼は、約530枚もの薬草類の写生画を描き、彩色を施しました 。その写生画は精緻で、葉や花、根などの細部まで正確に描写されており 、高い画力を持っていたことが伺えます。   




収録されている薬草の種類と特徴


『庶物類纂図翼』には、『本草綱目』に記載されている薬草を中心に、約530枚の写生画が収録されています 。   


一例として、『庶物類纂』に記載されているリンドウは、その根に「四肢疼痛」(手足の痛み)を治す効果があると記されています 。『庶物類纂図翼』では、リンドウの写生画とともに、紫色のリンドウは「里牟多宇」(りむたう→リンドウ)、白色のリンドウは「都流里牟多宇」(つるりむたう→ツルリンドウ)と、変体仮名で植物名が記されています 。   




写生画の特徴、画風、技法


『庶物類纂図翼』の写生画は、彩色が施され、葉、花、根の細部にいたるまで正確に描写されていることが特徴です 。また、図の次の頁には、変体仮名で植物名が記されています 。戸田祐之の写生画は、単なる記録としてだけでなく、芸術作品としても高い価値を認められています 。   




現代における価値、評価


『庶物類纂図翼』は、『庶物類纂』とともに、日本の博物学史上、貴重な資料として高く評価されています 。また、江戸時代の本草学や植物画の研究においても重要な資料となっています 。   


『庶物類纂』は漢籍文献を集成する伝統的な名物学的本草書の形態をとっていますが、実用的な物産学への傾斜を強めている点が特徴です 。そして、やがて中国本草学の影響を脱した、わが国独自の博物学の時期を迎えることになります 。『庶物類纂図翼』は、その過渡期に位置する図譜として、伝統的な本草学と近代的な博物学を橋渡しする役割を果たしたと言えるでしょう 。   


また、『庶物類纂図翼』は、江戸時代に生育していた薬草の姿を現代に伝える役割も担っています。その中には、現在では希少種となっている植物や、絶滅してしまった植物も含まれている可能性があり、当時の植物相を知る上で貴重な資料となっています。



関連資料


『庶物類纂図翼』が収蔵されている紅葉山文庫の管理を担っていた書物奉行の業務日誌である『御書物方日記』には、『庶物類纂図翼』の文庫への収納に関する記事が記されています 。   




参考文献、ウェブサイト





結論


『庶物類纂図翼』は、江戸時代中期の幕臣、戸田要人(祐之)が、長年にわたり自ら描いた薬草類の写生画をまとめ、幕府に献上したものです。約530枚の写生画は精緻で、葉や花、根などの細部まで正確に描写されており、高い画力を持っていたことが伺えます。

本書は、『本草綱目』に基づきながらも、日本の風土に根ざした植物画という点で独自性を持つとともに、伝統的な中国本草学から近代的な博物学への橋渡しをする役割を果たした、日本の博物学史上、貴重な資料と言えるでしょう。また、江戸時代の本草学や植物画の研究資料としても、そして、当時の植物相を知る上でも重要な資料となっています。




※ 画像引用:国立公文書館デジタルアーカイブ​

※​大量の画像でストレージ関係のためGoogleDrive(弊社アカウント、下記リンク先)に格納してあります。







bottom of page