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草木に息づく美 橘保国『繪本野山草』の世界

  • 執筆者の写真:  JBC
    JBC
  • 2023年12月23日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月25日


狩野派の町絵師、橘保国


橘保国は、1715年に生まれ1792年に没した、江戸時代中期の狩野派の絵師です。出身地に関する情報は乏しいものの、大坂で活躍しました。父である橘守国に師事し、狩野派の画法を学びました。狩野派は、室町時代中期に狩野正信を始祖として興り、桃山時代から江戸時代にかけて将軍家御用絵師として活躍した画派です。橘保国は、御用絵師ではなく町絵師として、町人の需要に応じた絵画制作を行っていました。父である橘守国も町絵師として多くの絵本や絵手本を出版しており、後の浮世絵師に影響を与えた人物として知られています。橘保国は、父の業を継ぎ、主に絵本の挿絵を描いていました。父・守国との合作も知られています。ちなみに、守国は版画作品を多く残している一方、肉筆画は現存するものが極めて少ない点が興味深いところです。   


橘保国は、「後素軒」、または「秋筑堂」と号しました。代表作としては、『鯉図』、『東海道富士図』、『鯉乃滝登り図屏風』などが挙げられます。これらの作品は、日本の美術館に所蔵されています。また、『絵本野山草』や『画志』、『絵本詠物選』などの著作も残しています。特に『繪本野山草』は、165品もの植物の特徴を精緻な図とともに解説した植物図譜として、園芸文化史上貴重な資料となっています。また、宝暦5年までに法橋、明和7年までに法眼位を得ています。   


守国の作品としては、『絵本通宝志』や『絵本故事談』、『唐土訓蒙図彙』、『扶桑画譜』、『絵本鶯宿梅』などが挙げられます。また、『絵本写宝袋』も手掛けており、生涯に20種以上の絵手本を制作したとされています。さらに、『顕浄之掃除』の挿絵も担当しました。   




繪本野山草


『繪本野山草』は、橘保国によって宝暦5年(1755年)に刊行された、全5巻5冊からなる植物図譜です。出版社は、大坂の称觥堂で、版元は渋川清右衛門です。彫刻は、藤村善右衛門と藤江四郎兵衛が担当しました。本書には、山野に自生する植物165点が、狩野派の画法を用いた精緻な図で描かれています。   


本書に描かれている植物は、梅、桜、桃、躑躅、牡丹、芍薬、菖蒲、紫陽花、朝顔、蓮、桔梗、萩、菊、紅葉、芒、松、竹、椿など、多岐にわたります。各図には、和名と漢名に加え、植物の形態や特徴、生育地、用途などが詳しく記されており、その精緻な描写と詳細な解説は、読者に植物の美しさや奥深さを伝えています。   


『繪本野山草』は、当時の園芸文化を反映したものであり、園芸愛好家や絵師にとって貴重な資料となりました。また、植物学的な観点からも、当時の植物の分布や生態を知る上で重要な資料となっています。さらに、絵師の育成を目的とした絵手本でもありました。   




繪本野山草の文化的意義


江戸時代は、本草学と呼ばれる、薬草や動植物、鉱物を研究する学問が盛んでした。本草学は、医学と密接に関連しており、薬効や毒性を正確に伝えるために、多くの図譜が作成されました。また、将軍や大名たちは日本全体や各地の物産、動植物を調査させ、自ら絵を描いたり絵師を雇ったりして動植物図を作成しました。さらに、園芸ブームの影響もあり、動植物や図譜に対する関心は、武士や学者だけでなく、一般庶民にも広がっていました。   


『繪本野山草』は、このような時代背景の中で刊行されました。本書は、単なる植物図鑑ではなく、絵手本(絵の描き方を習うための教材)としての役割も担っていました。狩野派の画法を学ぶ絵師にとって、『繪本野山草』は、植物を描く際の参考資料として役立ったと考えられます。また、精緻な図と詳細な解説は、園芸愛好家にとっても魅力的なものであったでしょう。   




繪本野山草の特徴


『繪本野山草』は、他の植物図譜とはいくつかの点で異なっています。まず、狩野派の画法を用いて描かれている点が挙げられます。狩野派の画法は、力強い線と鮮やかな色彩が特徴であり、写実性と装飾性を兼ね備えています。『絵本野山草』の植物図は、この狩野派の画法によって描かれているため、他の植物図譜に比べて、より芸術性の高いものとなっています。   


また、『繪本野山草』では、和名だけでなく漢名も併記されている点が特徴です。当時の日本では、本草学の影響で、中国の文献に基づいた植物の知識が重視されていました。『繪本野山草』に漢名が併記されているのは、こうした当時の学問的な状況を反映したものであり、中国の植物図譜との比較を容易にするという意図もあったと考えられます。   


 


結論


橘保国の『繪本野山草』は、江戸時代中期に刊行された植物図譜です。狩野派の画法を用いた精緻な図と詳細な解説は、当時の園芸文化や植物学を反映したものであり、現代においても貴重な資料となっています。本書は、絵師の教育、園芸、そして植物学という、当時の様々な分野の関心を反映したものであり、江戸時代の文化と学問を理解する上で重要な資料と言えるでしょう。



第一巻


橘, 保国 ほか『絵本野山草 5巻』,柳原喜兵衛,文化3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2608944



第二巻


橘, 保国 ほか『絵本野山草 5巻』,柳原喜兵衛,文化3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2608944



第三巻


橘, 保国 ほか『絵本野山草 5巻』,柳原喜兵衛,文化3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2608944



第四巻


橘, 保国 ほか『絵本野山草 5巻』,柳原喜兵衛,文化3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2608944



第五巻


橘, 保国 ほか『絵本野山草 5巻』,柳原喜兵衛,文化3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2608944

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