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菊花明治撰:明治時代に描かれた江戸菊の美

  • 執筆者の写真:  JBC
    JBC
  • 2023年8月21日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月27日


菊花明治撰とは


菊花明治撰は、明治24年(1891)に当時の鹿児島縣士族・今井兼角(本書以外に「菊牡丹梅培養手引草」も出版)によって出版された菊の画集です 。本書は少なくとも上之巻が存在し、江戸時代に発達した多様な菊の品種を、日本画家の長田雲堂 (1849-1922) が精緻な筆致で描き出しています。 国立国会図書館や宮内庁書陵部などに所蔵されており、貴重な美術資料として現在も閲覧することができます。 また、国立国会図書館のデジタルコレクションでは、上之巻の一部をオンラインで閲覧することも可能です。   




出版の背景


菊は、奈良時代末期から平安時代初期にかけて中国から日本に渡来しました。 当初は薬草として利用されていましたが、平安時代には観賞用として貴族の間で親しまれるようになり、旧暦9月9日の重陽の節句には、菊を用いた宴が催されるようになりました。 この節句では、菊を飾ったり、菊酒を飲んだりすることで長寿を祈願する風習が根付いていきました。   


菊は、鎌倉時代初期より皇室の紋章としても用いられるようになり、日本の文化と深く結びついています。  後鳥羽上皇が菊の意匠を好み、愛用したのが始まりとされ、明治期に「十六弁八重菊花紋」が天皇家の家紋と定められました。   


江戸時代に入ると、園芸ブームが起こり、菊の品種改良が盛んに行われました。  植木屋と呼ばれる園芸家たちは、様々な品種の菊を開発し、庶民の間にも菊を育てる文化を広めました。  生産の中心地となった江戸では、花弁が変化に富んだ「江戸菊」と呼ばれる品種群が育種され、独自の菊文化が花開きました。  菊花明治撰は、こうした江戸時代の菊の隆盛を背景に、当時の菊の品種を記録・保存するために出版されたと考えられます。   




菊花明治撰の内容


菊花明治撰には、江戸菊を中心に、様々な種類の菊が描かれています。  画集には多数の江戸菊の品種が収録されていますが、その正確な数は資料からは明らかではありません。 国立国会図書館のデジタルコレクションでは、「上之巻」の一部を閲覧することができ、様々な色や形の菊が写実的に描かれているのを確認できます。  例えば、「上陽色」と名付けられた鮮やかな黄色の菊や、花弁が幾重にも重なった豪華な菊など、多様な品種が収録されています。   


具体的な江戸菊の品種としては、「新秋の紅」などが挙げられます。  新秋の紅は、赤紫色の花を咲かせ、咲き進むにつれて花弁が変化していく様子が特徴です。  最初は平開して中心部の黄色い筒状花が見えますが、次第に花弁が立ち上がり、最終的には花全体を包み込むように変化していきます。   




江戸菊の特徴と当時の流行


菊花明治撰に描かれている江戸菊は、咲き進むにつれて花弁が変化していくことから「狂い菊」あるいは「芸菊」とも呼ばれる品種です。  この特徴は、江戸時代の人々の美的感覚を刺激し、菊の流行を形作りました。   


花の変化を楽しむ


江戸時代の人々は、江戸菊のように、咲き進むにつれて花の形が変化する品種を特に好みました。  花弁がねじれたり、折れ曲がったり、日々異なる表情を見せる菊は、人々の目を楽しませ、飽きさせない魅力を持っていたのでしょう。   


多様な花色


江戸時代には、赤、白、黄、紫など、様々な色の菊が栽培され、楽しまれていました。  菊花明治撰にも、多様な花色の菊が描かれており、当時の豊かな色彩文化を垣間見ることができます。   


精緻な仕立て


江戸時代には、菊の仕立て技術も発達しました。  草丈や枝ぶりを調整することで、より観賞価値を高める工夫が凝らされ、菊花明治撰に描かれている菊も、当時の高い園芸技術によって育てられたものと思われます。   


菊細工の伝統


江戸時代には、「菊細工」と呼ばれる、菊を用いた人形や造形物の文化も発展しました。  竹や木で作った人形の骨組みに、菊の花を挿し込んで装飾する菊人形は、精巧な技術と芸術性を兼ね備えており、現代の菊人形のルーツとなっています。   




菊花明治撰の文化的価値と現代における評価


菊花明治撰は、江戸時代に育まれた菊文化を伝える貴重な資料です。  精緻な描写によって、当時の菊の品種や流行を現代に伝えるとともに、日本人の美意識や園芸技術の高さを示しています。  また、菊花明治撰のような植物画は、植物学的な記録としても価値があり、品種の変遷を研究する上でも重要な資料となります。   


菊花明治撰は、明治という近代化が進む時代において、伝統的な文化を記録し、保存しようとする意識の表れとも言えます。  西洋文化が流入する中で、日本の伝統的な美意識を見直し、後世に伝えようとする機運が高まっていた時代背景が、菊花明治撰の出版に繋がったと考えられます。   


現代においても、菊は日本の秋を彩る代表的な花として、多くの人々に愛されています。  近年では、菊の新たな魅力を発掘する動きもあり、伝統的な品種の保存や、新しい品種の開発など、菊文化は進化を続けています。  菊花明治撰は、こうした菊文化の過去と現在を繋ぐ、重要な役割を担っていると言えるでしょう。   




類似の菊の画集や関連資料


菊花明治撰と類似した菊の画集や関連資料としては、以下のようなものが挙げられます。


  • 「菊花図譜」:江戸時代後期の文化年間 (1804-1818) に出版された菊の画集。様々な菊の品種が、彩色豊かに描かれており、当時の菊の流行や多様性を示す資料となっています。

  • 「百菊図」:江戸時代末期の嘉永年間 (1848-1854) に出版された菊の画集。写実的な描写で、菊の美しさを表現しており、植物画としての芸術性も高い作品です。



     

結論

菊花明治撰は、明治時代に描かれた江戸菊の画集であり、当時の菊文化を現代に伝える貴重な資料です。  精緻な描写は、日本人の美意識や園芸技術の高さを示すとともに、植物学的な記録としても価値があります。  また、近代化が進む中で、伝統的な文化を記録し、保存しようとする明治時代の精神を反映した作品とも言えます。   


現代においても、菊は日本の秋を彩る花として、多くの人々に愛されており、菊花明治撰は、菊文化の過去と現在を繋ぐ重要な役割を担っています。 菊花明治撰は、単なる画集ではなく、日本の文化、歴史、そして美意識を後世に伝える、重要な文化的遺産と言えるでしょう。




上之巻


今井兼角 著『菊花明治撰』上之巻,今井兼角,明24.10.国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12899963


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